考えが甘いといわれ、あなたの希望ならコンサルタントのほうが向いている、だからそちらを当たれ、ともいわれた。
四次試験の役員面接で不合格。
しかし四次試験まで進んだのだからと前向きに考えて、また試験を受けた。
その試験でもこれまでの生き方が甘いといわれた。
同じことを同じように指摘されるということは、自分の生き方が甘かったのか、それともこうした転職希望者が試験官の日に甘く映ってしまうのか。
あまり深追いしないようこころがけて、こちらも最終試験の役員面接までこぎつけた。
そこでまた人格を否定され、ものの見方が浅いことを繰り返し指摘された。
「人事関係者なのに、グサッとくるようなことを平気でいってくる。
でも合格したい一心で堪えた。
耐性をテストされていたのかもしれない」採用になって二年。
苦しいが楽しいという。
表面的なことではなく、何をすればよいのかを必死になって考えさせられるとも語る。
仕事の内容は、乞われた企業に出向いての外部研修をすること。
対象の多くは幹部層。
大きくなりすぎた企業体は、自らの強みが見えなくなっている。
だから御社の強みは何かということを教唆することからはじまる。
それには事前学習として、かなりの資料を読み込む。
その会社の歴史から、現在の業績まで。
そうして強みと映った部分を具体的に提示する。
提示した「強み」が、参加者から否定されることはほとんどない。
薄々は感じていたものの、それは忘れなければいけない過去の遺産だと思っていたといった意見が多い。
それが共有できたら、今度は参加者同士を対面させる。
自分史を作って語ってもらい、互いの長所や短所を指摘し合う。
断片的であったり、隠されたままになっている能力を、どうやったらいまの仕事に活かせるか。
現在のポジションを一旦棚上げして凍結し、参加者と一体になって深夜まで議論する。
1年ぶりに会う参加者は、ひとまわり大きくなっている。
それを見るのが楽しいという。
まだまだ駆け出しだが転職してよかった、と澄んだ目で語る。
「このまま四〇歳になり四五歳になったら、大きな方向転換は難しいだろうと読んだrキャリアを積むには過去をばっさり捨てる。
五〇歳あたりに視点を置いて、そこから振り返ってみて、いま何をするのがよいのかを考えるようになった。
何が得意だったかは関係ない。
何がしたいか、何に向いているか、どういった職業に就けばぼくのエンジンがフル回転するのかを考えるようになった」年収は落ちたけど……Bさんは三一歳。
一九九九年に入社したから、Bさんも就職氷河期を味わった。
銀行に就職したかったが、都市銀行から地方銀行まですべて不合格。
証券会社に就職した。
運用のスペシャリストからトレーニングを受けた。
向いていた仕事とは思えなかったが、成績は伸びた。
四年経ったところで仲介者が現れ、ヘッドハントのかたちで外資系証券会社に入社。
ところがここで失望。
「人間関係がすごく悪かった」。
仲介してくれた人物に相談し、半年して転職。
今度は外資系の銀行に移った。
待望の銀行だったし、かつて夢見ていたディーラーの仕事をするようになった。
朝は七時出勤と早いが、終業時刻は五時と、こちらも早い。
「残業はない。
残業しないように仕事をすることを求めてくる」外資はちがうと思った。
転職するたびに年収は増加していったものの、なんとなくエンプティ。
上目は図書館に行って哲学書ばかり読むようになった。
「仕事はきつくない。
残業もないし。
昼食時間も一時間半ほどある。
ゆったりしていた。
でもなんのために働いているのかわからなくなった。
このまま一〇年も経って四〇歳になったら、おいしい給与が捨てられなくなってしまうのではないか。
年収ですか?一〇〇〇万のちょっと手前くらいもらっていた」民間のシンクタンクに研究員として転職。
仲介者の手を煩わせることなく、今度は自分で探した。
年収は六〇〇万に落ちた。
「残業だらけでも充足感がある。
何が身についているのかわからないが、あと一〇年くらいここにいれば、何かが身についているだろうといった予感がある。
それまでの仕事は、あるものを右から左に移してお金がもらえるような業務だったし電卓のような頭があればよかった。
でもここでは思慮が求められる。
会議なんか、頭が沸騰して誰も何もしゃべれない時間がある。
刀を持った剣士同士がにらみ合って動けない、みたいな(笑)。
その緊張感がいい」いつまでも「仮の職場」なのはなぜ?AさんとBさんとぼくは、二〇〇七年に食事を共にした。
そこでふたりの意見を聞きながら思ったのは、転職に関する考え方が異なるらしいということだ。
Aさんは、できれば転職しないで、自分の居場所を自職場内で探そうと考えていたという。
一方のBさんは、職場は最初から仮の職場ととらえており、転職しながら自分の居場所を探そうと考えてきたと語った。
AさんもBさんも、ともに二〇代前半であること、また就職氷河期を経験していることから、転職に対する考え方は似たようなものだと、ぼくは想像していたが、大きく異なっていた。
Aさんは第一志望に就職し、Bさんは志望していた銀行からすべて断られたというバックグラウンドが影響しているのかもしれない。
それとも単なる個人差だろそうした思いを抱きながら話をしていたとき、出てきたことばが「帰属意識」だった。
Aさんは入社した大手ゼネコンに対して帰属意識を持っていたという。
Bさんは結果論かもしれないが、と前置きしたうえで、こう語った。
「どこも仮の場でしかないから、帰属意識という概念は学生のときから持てなかった。
だから銀行に入っていたとしても、やはり転職していたのではないか。
いまの職場で、帰属意識とはこういう感覚をいうのかと思うことはあるが、あと一〇年が経ったところでどう感じているかはわからない」Aさんの入社が一九九六年で、Bさんの入社が一九九九年。
一九九八年は、このあいだにある。
不安を語るうえで転換点になるのが一九九八年だと指摘したのは、『産業人メンタルヘルス白書』だった。
将来に不安を覚える労働者は、全国平均で見ると増えている。
一それととともに、弱い不安を抱えている人と、極めて強い不安に悩む人とのバラつきが大きくなっているとも指摘した報告だった。
人は、社会に渦巻く不安が強ければ強いほど、いまいる職場を仮の職場ととらえ、転職の機会をうかがうようになるのかもしれない。
アメリカの心理・経営学者、ダグラス・マクレガー(一九〇六-一九六四)が提案した人間観・動機づけにかかわるふたつの対立的なⅩ仮説と、Y仮説というものがある。
X仮説は「仕事とは金銭を得る手段であるから、金銭をたくさん与えることによって仕事に対するモチベーションは高まる」といった立場から、次の五点を掲げる。
①仕事は元来、大多数の人にとってイヤなものである。
②大多数の人は、仕事に対して自らの責任をとろうとしない。
③大多数の人は、組織上の問題を解決するだけの想像力がない。
④生理的・安全的な欲求のみで、人は動機づけられる。
⑤厳格に統制し、ときには組織目標の達成を強制する必要がある。
一方のY仮説は「仕事とはやりがいや働きがいによって支えられており、これを与えることによって積極的に働く意欲が高まる」といった立場から、次の五点を掲げる。
仕事は条件次第で、遊びと同じく自然なものになる。
自律が、組織目標の達成には不可欠である。
大多数の人は、組織の問題解決に不可欠な想像力を持っている。
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